歯科口腔外科について


2. 舌の苔(こけ)のお話
舌は全身を映す鏡
日頃、何気なく使っている舌ですが皆さんはご自分の舌をじっくり観察されたことがあるでしょうか?多くの人(特に若い人)は、じっくり見たことが無いでしょうし、そんなこと今まで気にしたことも無かったかもしれません。いや、実は気になることがあって鏡でじっくり観察したことがあるという人は体が舌を通じてあなたに何らかのサインを送っていたのかもしれません。古来より、東洋医学において舌の状態を診る舌診は、全身状態を評価する上でとても重要であるとされてきました。これは舌や、舌の苔(舌苔:ぜったい)の状態と全身状態とのあいだに関連性が認められるからです。舌は全身を映す鏡なのです。
舌の構造
まずは舌の構造から説明しましょう。舌は横紋筋という種類の筋肉のかたまりでできており、その表面は舌乳頭とよばれる突起で覆われています。舌乳頭はその形から糸状乳頭、葉状乳頭、茸状乳頭、有郭乳頭にわけられ、そこには味を感じる細胞である味蕾が存在します。はじめて自分の舌の付け根のあたりを見た時に驚かれるのが有郭乳頭の存在です。有郭乳頭は舌の背面の付け根近くに横に並んでいる直径3mm程度の大きな乳頭で、全部で8〜15個程度あります。これをはじめて見た人が舌癌ではないかと心配されて来院されることがしばしばありますが誰にでもある正常な組織です。
舌の色と健康状態の関係について
次に舌の色です。舌の色には舌本体の色のほかに舌苔の色、着色物の色があります。舌は血管が豊富で粘膜に覆われているためその色は血液の色に大きく左右されます。
貧血の場合は白く、濃縮されている場合は深紅色となります。舌の苔は正常な場合、白い苔が全体に薄く均等についています。糸状乳頭が増殖したり、腐敗した粘液や脱落した上皮細胞が積み重なると白い苔が分厚くなります。脱水や唾液分泌の低下による自浄作用の低下、消化管の感染症などの場合によく見られます。カビの一種であるカンジダ菌が異常に増殖している場合もあります。
熱や病気が進行すると、苔に黄色の着色を認めることもあります。慢性胃炎や胃下垂、消化吸収不良でも薄黄色苔が形成されます。病状が進行すると黄色の程度が強くなる傾向があります。また喫煙本数の増加とも関連しているといわれています。
さらに病状が進行して重くなった場合、灰色や黒色の舌苔がみられる場合があります。高熱や脱水、炎症性疾患、感染症、唾液pHの変化などとの関連があります。口腔内の常在菌のバランスがくずれ菌交代現象をおこすと舌苔が黒〜褐色に着色し、舌に黒い毛が生えたように見えることがあります。これは黒毛舌と呼ばれ、長期間抗生物質を服用した場合などによく見られます。
反対に全く苔を認めない状態を無苔といい、これも異常な状態です。
無苔は舌乳頭の全体的な萎縮によると考えられます。疾患の重度慢性化、長期化の場合に見られ、慢性的な栄養不良が考えられます。微量元素や鉄分が不足した場合などにも見られます。消化の良いものをバランス良く摂る必要があります。
部分的に舌苔が欠落した状態はその様子が地図のように見えることから地図状舌といい、体の状態が安定していないことを示しています。胃腸が弱い場合や栄養が不足している場合など、たんぱく質やビタミン、微量元素の不足が考えられます。また、舌がこのような状態の人はストレスに対する抵抗性が低下している場合も多く、心身ともにリフレッシュが必要です。
歯痕について
舌の横ががたがたと波打ち、歯のあとがついたようになっている状態を歯痕といい、原因は2通り考えられます。1つは体内の水の循環がスムーズに行われていないと舌に体液が滞留し、舌が腫れぼったい状態(胖大)になり、歯に舌が押し付けられたような状態になっているケースです。この場合は食生活に注意が必要です。脂っこいものや甘いもの、酒類を減らし、汗をかくための適度な運動が必要です。2つ目はストレスや緊張により、舌を歯に強く押し当てる癖がある場合です。くいしばりもこれに当てはまります。この場合、ストレスの原因を取り除き、できるだけリラックスできる環境に身を置くように心がけましょう。
溝状舌について
舌の表面に深い溝ができた状態を溝状舌といい、血液成分のバランスや、栄養状態の不良が考えられます。舌粘膜が部分的に萎縮し、再生力が低下しているために溝が生じ、炎症を起こしたり、痛みがでたりします。体内の水分や血液の状態を整える必要があり、適度な水分補給、辛いものなど刺激物の制限、冷たいものを避け、体を温める食品を摂るといった注意が必要です。
この他にも専門的には見るポイントはまだまだたくさんありますが、ここでちょっと注意していただきたいのは必要以上に気にしすぎないで下さい。その日の体の調子、栄養状態などによって舌の状態は常に変化します。時にはヒリヒリ痛むこともあるかもしれません。しかし、あまり神経質になりすぎると痛みだけが増幅され、慢性的に痛みだけが続くことがあります。口の中の粘膜は十分な唾液で洗い流されることによりその状態を保っていますので乾燥は禁物です。一日に何度も舌を引っ張り出して見たり、指で触ったり、歯ブラシで擦ったり、あるいは舌の先で歯や義歯の隙間をさぐったりといった行為は舌を痛めつけていることに他なりません。年をとるとどうしても唾液の分泌量は低下しますし、女性の場合は特に更年期になると体のバランスが崩れやすいので舌に症状が出易くなります。もし、どうしても気になるという場合は専門医で定期健診を受けるようにして下さい。生活習慣の改善だけでは軽快しない場合、その状態に合わせて漢方薬をはじめビタミン剤や安定剤などの内服薬や、うがい薬、塗り薬などを組み合わせて治療を行います。
歯科口腔外科部 歯科医師 本多易史