当診療科の特色
スタッフ紹介
■日赤和歌山医療センターにおける“救急”の理念
たとえ軽症であろうとも、市民や第一線の医師が、「救急」と考えた疾患はその重症度にかかわらずそれは「救急疾患」であり、初期〜三次まで全科、全症例の依頼に24時間応需することが救急施設の基本と思っています。このため全例応需を絶対命題として運営しています。時には多くの患者を受けるための心身の負担や内外からの不理解もあり、愚痴も言いたくなりますが、救急部における応需拒否はその存在を危うくする重大な過誤と考えてこの方式を続けています。そして、このことは多くの方に賛同、評価頂いています。
また、救急医療の重要な課題の中に患者選別があり、軽症と思われる群からの重症例のピックアップは重要な課題であり医師研修にも有効に活用されています。
■ERとICU
ERには、重症患者対応ベッドが3床、中等症用ベッドが6床、軽症用ベッドが10床、感染症、小児科、婦人科、耳鼻科などの特殊科用の診察室が6室、オーバーナイトベッドも6床あります。救急患者入院用の病室としては、院内ICU(原則的に院内からの救急患者対応用)8床、救命ICU 12床(救急外来からの患者対応用)、救急病棟(ICUから退室した患者の後方病床やHCUとして使用)44床を持ちます。
■機材
マルチスライス全身用CT、MRI、高気圧酸素治療室、熱傷バス、空気流通ベッド、体位変換ベッド、血液浄化装置、脳波計、電子内視鏡、毒物分析装置、人工心肺補助循環装置、IABP、ドクターカー、屋上へリポートなど、“無い機器は無い”状況で、全ての機器を備えている。
■研修
当センターでの救急医療の修練を希望される方は、1ケ月の短期から、1年以上まで、希望に沿って受け入れています。当施設での研修の長所は、各科に亘る豊富な患者数の経験が可能なこと、救急外来から集中治療までの一貫した救急を研修出来ること、専門科との円滑な連携による専門科の知識も吸収できることです。
Ⅱ 当診療科における救急医療の背景
■ER型救急とは?
私は大学救命センターでの救急医療に20年間従事した後、当センターでの救急外来診療をこの11年間行っていますが、そのタイプを「ER型救急」と名付けることを提唱しています。もうひとつの対照的な救急分野は重症患者のみを集中治療室等で診療する「救命型救急」です。この2つは対峙するものではなく異なる救急医学分野であると思います。今では「ER型救急」という名称は人口に膾炙し公的にも使用されています。なお、私の目指す体制は現在アメリカ合衆国のERで行われているタイプのもの(超重量スタッフでの救急外来救急)ではありません。また、本邦の「ER型救急」の”定義”を作る作業をしたことがありますが、結果的には、本邦では「医療過疎地でのバックアップ無しの一人診療」「急患センターにおける診療」「病院一人当直」「病院各科持ち回り当直」のように多くの分派を持つため一律に決定するのは不可能でその亜タイプを分類せねばならないことを自認しました。
■新臨床研修医(スーパーローテ)の指導を始めて
研修医」や「出向医」を、過去30数年にわたり数百人を指導してきました。このため教育についてはそれなりの自負は持っていました。しかし、今回の新臨床研修を始めた時になにか「違和感」を覚えました。積極的な意欲が感じられない、何故か?と自問して、思い当たったのは過去の研修医は全て「自主的」な研修であったのが、新臨床研修ではブロードな知識の習得を目指したために「義務的に救急をローテしなければならない医師」がいるということでした。今後は、時には「水を飲む気のない馬に水を飲ませる」立場にたった研修方法も考慮せねばならないと思われました。
■教育
救急部門の大きな特徴は、研修者の希望の多いことです。これに対しては、積極的に門戸を開き、大学(京都大学、徳島大学、関西医大、滋賀医大、自治医大、筑波大学など)、他病院(神戸神鋼病院など)、院内出向、個人的な希望により年間数十名以上の研修を行っています。
■理想的な救急医療への改善点
◇医療圏の設定の変更
行政区別の救急圏割りをやめ、ひとつの中核病院を中心に医療圏を設定します。この方式の利点は、救急隊による救急患者搬送における距離的な無駄と矛盾が一掃され、また初期施設からの患者の重症度別の搬送をスム-ズにして患者搬送にまつわる各種のトラブルや搬送先を探索する労力が解消します。
◇救急部のオ-プン化
救急部は、他施設からの患者搬送の頻度が高いです。紹介医師が紹介した患者の治療に参加することは教育効果があり、治療に引き続き参加することで患者家族の理解が深まり、また救急施設との相互理解もなされます。
◇現状の救急情報システムの改善
現在の中央に情報を集積しただけの一方通行システムでは利用価値が低いため、端末からディスプレ-を利用して情報の収集できるシステムに変換し、隣接組織との広域的な情報交換システムも試みるべきです。
◇初期施設への適切な搬送の啓発
初期施設よりの搬送に関しては、末期患者の搬送は避けるべきであり、逆に早期搬送が必要であった患者がいたずらに時間を浪費されることは残念です。このため初期病院において正確な治療限界ラインと搬送適応の分類がなされ、適応のある重症例は即刻搬送されて、重症度別医療分担がなされるべきです。
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Ⅲ 患者分析
救急部の活動の理解のために、患者分析を提示します。
(1)患者数の推移(2000年〜2010年)
 2000年は、1万3000名弱であったのが、2005年には、3万1000名と最多になったが、その後、県の小児救急医療対策により、患者の急患センターへの分配が促進され、2万9000名前後で推移した。2009年からは、再度増加し3万人強となった。
図2-1
(2)月別患者数(2010年)
月平均2542名、一日平均84名であった。
図1-1
(3)来院時間別患者数(2010年)
日勤帯に、37.6%が、準夜帯に44.6%と約半数が、深夜帯に17.8%が搬入された。準深夜帯に6割が搬入されている。日勤帯は、各時刻ほぼ同数であり、深夜帯は5時に谷のある谷型、準夜帯は、19時にピークのある漸減型を示していた。
図1-2

図1-3
(4)年齢(2010年)
70歳台が最多で、14%、ついで、10歳未満で13%、70歳以上が27%であった。90歳以上も、633名(2.1%)認めた。その他の年齢層には目立った差はなかった。
図1-4
(5)性別(2009年)
男女差は全くない。
図1-5
(6)来院方法(2010年)
救急車の利用者は、8705名(29%)で、全体の約3割であった。
図1-6

図2-2
(7)救急車台数の変化(2000年〜2010年)
2000年は、3400台弱で、一日平均9台であったが、以後は、経年的に増加し、2010年には8700台弱となり、一日平均24台となった。11年間で2.7倍になっている。
図2-3
(8)在室時間(2009年)
1時間未満が、13956名(47%)と約半数をしめるが、基本方針として、ERにての診療は「最終帰結」までを、ポリシーとしているため、2時間以上の在室=治療期間を要する患者も非常に多く、22%をしめた。
図1-7
(9)地域別救急車搬送(2007年)
同心円的に近辺から搬送されているが、県外搬送(大阪府)が9%あった。これらは、メディカルコントロールの対象外となるため、連携に各種の齟齬が生じた。また、20キロ以上の遠隔地からも多数の搬送があった。
図3-1
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(10)時刻別救急車数(2010年)
日勤準夜帯は、搬送患者数の差と無関係に、37−39%とほぼ同数の搬送がある。深夜帯は少なくなるもの、23%と、ある程度以上の数がある。
図3-2
(11)診療科分類(2010年)
整形外科・消化器内科が約13%、小児科・脳神経外科が9%、呼吸器内科・眼科・循環器内科が7%、耳鼻咽喉科・泌尿器科・形成外科・皮膚科が4%など全ての疾患が認められる。
図1-8

図1-9
(12)内因外因(2001年〜2008年と2010年)
2001年は、外因性は20.1%と、5分の1程度であったが、2008年は、25.7%と増加傾向があった(最新の2010年は外因性は23.4%であった)。しかし、所詮外因性救急例は少数である。
図2-4

図2-5
(13)転帰(2010年)
入院したものが、5838名(19.1%)であった。結核などの感染症や、社会的事由で、転院が必要になったものは、わずか30名であった。
図1-10
(14)入院患者数(2000年〜2010年)
2000年は、3200名強の入院数で、1日平均は、9名であった。その後は経年的に増加し、2007年より5000名をこえ、昨年は5838名となり、毎日16床の空床が必要であったが、対策と努力により全ての患者を受け入れた。なお、全入院患者は、18034名でありERからの入院率は32.4%となる。
図2-6
(15)救急車利用者の入院率(2010年)
2000年には、56%の入院率であったが、その後は、経年的に低下し、2010年には、39%となり、入院率が下がっている。一概に、全ての帰宅患者が不適切使用であるとはとは言えないが、救急車の適正な使用が望まれる。
図1-11
(16)当センターのCPA症例(2007年)
2007年のCPAは274名で、ERで心拍再開が得られたものは約3割であったが、その後の社会復帰率は1%以下となお悪く、その対策が引き続き必要である。
図3-3
(17)当センターのCPA症例の時刻別心拍再開率(2007年)
有効な対策への一つの示唆として、日勤帯の方が時間外より再開率が有意差をもって高率あった。
図3-4
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(18)目的:AHAの推奨
2008年の4月に、CPAの蘇生について、AHAからハンズオンリーCPRの推奨論文が出たが、ILCORによる再審査の結果としては、その有用性は、保留事項とされている。このハンズオンリーCPRの有効性について検討した。対象は、和歌山県の2007年度のウツタインデータによるCPA症例である。
図3-5
(19)bystander数
1年間のCPA数は、1005名であった。このうちbystander CPRがなされたものは、450名(45%)であった。
図3-6
(20)bystanderの内容
胸骨圧迫(心臓マッサージ)のみ(=ハンズオンリーCPR)が、310名(69%)と約7割を占めた。
図3-7
(21)両群の心拍再開率の差
心拍再開率は、ハンズオンリーCPRで32%、人工呼吸併用CPRの場合、36%であり、両群に有意差を認めない。
図3-8
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(22)考案
1)2000年〜10年の間の推移は、患者数は、2000年は、1万3000名弱であったのが、2005年には、3万1000名と最多になったが、その後、県の小児救急医療対策により、患者の急患センターへの分配が促進され、2万9000名前後で推移した。しかし2009年からは、再度増加し3万人強となった。救急車台数は、2000年は、3400台弱で、一日平均9台であったが、以後は、経年的に増加し、2010年には8700台となり、一日平均24台となった。11年間で2.7倍になっている。入院者数も、2000年は、3200名強の入院数で、1日平均は、9名であった。その後は経年的に増加し、2007年より5000名をこえ、昨年は5838名となり、毎日16床の空床が必要であった。
(2)2010年の分析では、70歳台、10歳未満、内因性(76%)、準・深夜の搬送が多く(62%)、これに対応出来る体制が必要である。救急車による搬送は、全体の約29%と多いが、入院率は39%と低く、市民による救急車の利用に問題がある。また、大阪府からの搬送も多く、県境を越えての救急体制作りが必要である。
(3)当センターの、2007年1年間のCPAOA例は274名で、CPRにより86名(31%)が入院に至った。蘇生の成功に搬入時刻差があった。1年後の社会復帰率は1%以下と悪く、心肺蘇生法の改革の限界を感じる。
4)和歌山県の調査では、ハンズオンリーCPRは、人工呼吸併用法に比して、心拍再開などに有意な低下を示さなかった。
Ⅳ 電話対応による救急受付(電話トリアージ)
◇はじめに
ER型救急では、一日に何十回と救急依頼の電話が鳴る。これらに対して、短時間内に、情報を入手、病態を評価し、適切な指示を行い、自施設への受け入れの諾否や搬送先医療機関を決定する(当センターのように全例応需が原則の施設では不要)。この対応は、”冷汗をかいている“ことを重大視出来ない非医療職では的確な病態評価は無理であり、救急医学に精通した、決定権を持つ責任者が対応すべきである(それ以外の医師では不可である)。このトリアージは患者観察無しで限りある情報で瞬時に決定せねばならず、高い能力が要求され、小さなMCのディレクターとさえ言える。また、応諾までの時間的ロスは最小限にすることが大切である。今日でも、救急隊が代表番号にかけた後、院内でたらい回しにされて救急隊が右往左往し、挙げ句の果てに断られ、その間に病態の悪化を見ることはしばしば遭遇する。電話対応の要件は、対象からの情報の入手による病態の判断、それに基づく指示であり、その対象者は、一般市民、医療者、救急隊の3種類がある。
1 市民(保護者)との電話対応
以下のことを聴取し、指示する。全ての問診や指示にあたって、動揺している保護者を落ち着かせながら正確な情報を入手、指示する。病態によっては、口頭指示による緊急処置を指導する。
■聴取すること
(1)電話の相手の名前を聞く、相手が患者自身でなければ血縁関係を聞く。連絡方法も聞いておく。
(2)出来る限り本人と話をする。そうでない場合は、密接な同居人から情報を取る。遠い親戚や単なる知り合いからの「又聞き」は誤解の元である。
(3)患者の氏名(旧姓に注意)、年齢(生年月日)、性、住所(旧住所に注意)、受診歴のあるものでは「ID」や「カルテ番号」を聞く。保険の種類。
4)症状(いつからどうした?)、バイタルサイン、既往歴、家庭内を含めてすでに行われた処置の内容を聴取する。
(5)到着までの時間と来院のための交通手段を聞く。
(6)努力呼吸、意識障害、冷感、など重篤な病態のある症例では、悪性疾患の末期であるかどうか、これについてのliving will やDNARの確認をとる。
(7)電話に対して、先に上記の責任者以外が出た場合は事務的なことのみ(前述)の聴取に留め、責任者に手渡して、聴取が“二度手間”にならないようにする。
■指示すること
(1)吐物などの排泄物、異物、服用薬等必要物の持参:診断や治療に有用なので、前記のものがあれば必ず持参するように指示する。
(2)重篤な病態や急変が考えられるものでは、救急車を使用しての早急な受診を促す(入院準備や家族への連絡は後回しにするように指示)。
(3)緊急治療の口頭指導:窒息例では、用手的方法による異物排出の指導(ハイムリック法や肩甲骨間の叩打法)を口頭指示する。CPA例では、人工呼吸、気道確保、心臓マッサ-ジの指導を行う。
■伝えること
(1)自分の部署名、職種、氏名を名乗り責任所在を明らかにする。
(2)受診を指示した患者が軽症の場合、他の重症患者を優先して診るので待ち時間があること(限りなく長いこともある)。
(3)救急部の医師が全ての患者の初診をしている場合は、「最初は小児科の医師ではない救急の医師が診る」ことを伝え、了承を得る(ダメな場合は断る)。
(4)電話対応により緊急受診不要と判断した時も、翌日必ず通常外来を受診して診断を確定するようにそのまま放置しないように指示しておく。
(5)電話だけでは100%確定診断が出来ないものも多いため、慎重な経過観察が必要であることを説明し、起こるべき症状と変化を指導しておく。
(6)当施設のように「全例応需」が原則の組織では、応需して診察はするが時に診察後に転院が必要になることがあることの確認をとる。
(7)当施設への連絡方法、担当部署、担当者の名前を伝える。
(8)保険証の持参(コピー不可)。
(9)入院の適否の決定は診察後であり、来院のための準備に時間を浪費することは良くないので、入院準備はせずに迅速な受診を優先して欲しいこと。
(10)重症患者などで家族に連絡をとり来院を指示するときは、「事故のないよう慌てずに」、しかし「準備は無しで迅速に」来て欲しいと伝える。また、来院時は、説明の前に、まず最初に患者が本人であるかの確認をしてもらう。1年に1回くらいは顔を見て「違う、他人だ!」事件はある。
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(付1)時間外のいわゆる“相談”電話:
「この症状はほっておいて良いか?」、「何科を受診すべきか?」からはじまって、「泣きやまない」「熱のある時の水分の摂取法」から「苦情電話」まで様々のものがある。この“よろず相談的”な電話が時間外では交換台からERに回ってくる、この対応も重要なER看護の業務である。この場合は「接遇能力」が必要になる。
(付2)小児救急における電話相談事業(0.5次救急計画):
最近の小児救急の患者数の増加に伴い、不要不急な救急受診の抑制策と保護者の不安の解消を目的として、市民からの電話相談を看護師やバックアップ医師が対応するシステム作りが国の指導により全国に広がっている(31都道府県実施)。大阪府の平成16年の実績では、午後8時から午前8時までの対応で一日平均63件、医療機関への受診を勧めたのは11%のみであった。指示のプロトコール作りと指示内容の責任問題を免責にすることが必要である。
(付3)中毒情報センターにおける電話相談事業:
多くの人たちの努力により20年前に日本中毒情報センターが設立、活動を開始し、現在では、オペレータによる電話応答、タバコ専用応答電話、ファックスを利用した自動応答システム、インターネットなどにより、中毒患者の治療法や毒性について医療機関や市民に情報配布サービスしている。充実したプロコールの作成、データの解析があり、スタッフの能力も開発されており、本邦で成功した電話相談事業といえる。2006年9月よりは市民からの相談を無料化した。
(付4)各地域での情報センターの活動:
行政の指導により各消防署に付属したり、医師会など別部署に設置され、市民からの受診相談に対応している。一見、有効に活動しているように見えるが、実際の受診については、近隣の消防署や医療機関への直接相談が多く、情報センターへの依頼数は少なく組織形態はあるものの本来の活動はなし得ていない。
(付5)頻回受診患者:
ER型救急施設は、毎日の如くに救急外来を不定愁訴で受診する頻回受診患者を常時抱え困惑している。しかし、頻回の受診故に応需拒否することは危険性をはらむ、筆者の経験でも長期にわたり100回以上の頻回受診をしていた患者が最終の受診時には、AMIであったり、肺ガンを発見されたことがある。つまり、“総論”としては、頻回受診患者の受診制限は早急に解決せねばならない問題だが、“今”受けた依頼電話については、患者を診ずして断ることはしてはならない。
(付6)トラブル患者:
事故退院患者、暴力患者、犯罪歴のある患者、など、問題患者をいったん受け付けてしまうとその処理は大変なことになるため注意する。
(付7)トリアージ専門医、看護師の養成:
将来的には電話トリアージの専門家の養成のための教育システムが設立され、専門的な知識はモチロンのこと、インタビュー技術、近隣の救急医療システムの理解まである専門家の存在が模索されている。
(付8)電話対応施行者側のチェックポイント:
以下のようなチェックポイントも提示され、トリアージ者の方にもきちんとした対応が要求されている。
電話対応者側のチェックポイント(例)
相手に問題に対する適切な情報を与えたか
病態の緊急性、重症度の適切な評価をしたか
アドバイスに一貫性があったか
必要時には医師に相談したか
相手がアドバイスに対して同意したか訊ねたか
礼儀正しい態度であったか
好感を持たれたか
(付9)スパーローテ研修でも必修項目に:
近年スタートした新研修制度でも「時間外電話トリアージが確実に責任をもって行える」というのが修練項目になっている。
2 医療機関との電話対応
■聴取すること
(1)私見ではあるが、紹介電話で「病態の全て」について聴取しようとはしない方が良い。時間の浪費であり、患者は実際に診察して初めて診断、評価が可能である。
(2)また、一般医への問診からその患者の緊急度を探ることは不確実である(遭遇することがまれな疾患や救急疾患の病態の評価や緊急性の判断は一般医には難しい)ため確実視しない。軽症といわれた患者が到着時には死戦期であったりすることは珍しいことではない。
(3)最も知りたいのは、病態悪化までの意識、呼吸、循環などの理学的所見、対照となる検査成績、日常の生活レベル、また、悪性疾患やCOPDなどでは、DNARや人工呼吸についての意志が提示されているか否かである。
(4)前医での投薬内容。
(5)搬送前の患者や家族への病態や治療の説明内容、および転院、紹介への説明内容、家族に十分な説明無しで転院させたり、善意ゆえだが、無断で搬送させることもあるが、受けた方では発生した家族とのトラブルの事後処理が大変である。
■指示すること
(1)そして、緊急状態である印象があれば、詳細な紹介状作成や搬送のための一般的な準備を放棄し、即時、救急車による搬送するようにと指示する(これが、前述したような上級医でなければならない理由であり、また、事務的な処理のために出発が遅れることは常時ある)。
(2)資料(カルテ、画像、手術記録、対照となる心電図、画像、検査成績)は欲しいが、内容の無いダラダラとした紹介状は不要である。
■伝えること(スタッフと自分へ)
(1)紹介電話による先入観を持ってはならない、「心不全の患者をお願いします」と紹介された患者が気管支喘息であることはいくらでもある。一度持った先入観はなかなか払拭できず、これが誤診につながることは多い。スタッフには、先入観のない新鮮な発想で対応できるように「呼吸困難の患者が来る」とのみ伝えるのもテクニックのひとつである。
(付1)仲人口:
悲しい事実として紹介医が応需して欲しいがゆえの、“仲人口のウソ”が多い。多臓器不全、末期状態、寝たきり、認知症、トラブル患者、係累無し、ひどい褥創、MRSA感染、肺結核の疑い等、様々の事実を隠蔽する時がある、医師としてのマナーの問題で、必ず真実を伝えて欲しい。
(付2)搬送の遅れと非適応患者:
2次医療機関からの救急患者の搬送について、臓器障害が極限を超え、救急、集中治療の範疇外の患者の搬送がある(critical point を超えた肝腎不全や敗血症患者、死戦期の患者等)。もう一日、もう数時間早く、未だ臓器障害が可逆的な間に送ってくれればと思うことはしばしばである。また、逆に、年余にわたる寝たきり入院患者を週末午後5時に搬送する事は常識外れである。
3 救急隊(司令室)との電話対応
■前提
(1)当たり前の話だが「ホットライン」の設置は救急施設の最低限の義務である。前述した一般電話での対応のための院内での時間ロスは秒単位で減少させねばならない。
(2)しかし、固定電話式の「ホットライン」では不十分である。食事、トイレ、移動中などは受信が遅れる。ゆえに、PHS式ホットラインは必須のアイテムである。
(3)司令室の情報と現場の情報が異なることがある。内容的には現場の意見が信頼できるが、指令システムの体制としては司令室に一本化した通報が望ましいためジレンマがある。
(4)救急隊との会話は、全て録音されていることを銘記して会話する。
■聴取すること
(1)病態、症状、バイタルサイン、氏名、年齢、性別、既往歴、受診歴。
(2)住所、発見場所、家族の有無と連絡が出来ているかどうか、そして救急車への同乗の有無、到着までの時間。
(3)外傷の場合は、エネルギー量が推定される車の損傷程度や現場の状況(落下例では高さ等)、デジカメによる撮影写真は有用である。
(4)既に施行されている処置(包括的、特定指示を含む)。
(5)第一例目を受けた時点で、その後集団急病になる可能性はないかを留意して確認しておく(交通事故、熱中症、食中毒等)。
■指示すること
(1)特定行為の指示:気管内挿管による気道確保と薬剤投与が指示行為である、施行について適否の問い合わせがあったときには回答する。各県でのMCにより決定された「細則」に応じて指示する。後述の「一般医」による理解不足のもの(適応症例の間違い)や、全体の流れを考えない(処置時間による搬送の遅れ)指示が出ることが懸念される。
(2)情報によっては、近隣の一二次機関で緊急処置を行った後に搬送すべきもの(緊張性気胸、誤嚥)があるので適応例ではそれを指示する。
(3)逆に、重症外傷等でトラウマバイパスすべきものはそのゆえを指示する。
(4)長距離搬送の時は、頻回の“脈の触知”を指示する、心電図モニターのみの観察では、PEAを見逃しての、搬入時“死体搬送”もある。
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■伝えること
(1)有用性のないセカンドコール(病院着3分前;病態変わらず安定)は不要であること。
(付1)アンダートリアージ:
救急隊によるCPA症例の評価には間違いはないが、“なまじ”、意識がある、呼吸をしている、心拍がある患者での「病態評価」が重要である。これらの症例が往々にしてアンダートリアージされるので注意する。ホットライン経由でない患者が、搬入時にショックのため死戦期であり、びっくりすることは多い(食道静脈瘤の出血、気管支喘息、AMIなど)。
(付2)バックボード搬送:
私見ではあるが、もうそろそろ、外傷例全てにバックボード搬送をやみくもに行うことの見直しを行い、正確な患者評価により適応を選択すべき時期に来ていると思う。バックボードへの固定により、外傷例での最優先課題である呼吸管理がスポイルされ病態が悪化している症例が認められる。
(付3)搬入拒否問題:
救急にとっての永遠の問題は、救急患者の搬送依頼に対する救急施設の「搬入拒否」である。その理由としては、「満床」「重症患者処置中」「多忙」「専門医不在」などが“使用”される。このような理由はいくらでも主観的に操作できるために、慢性的に拒否したり、「良いとこ取り」をする施設がある。私見としては、市民が救急と考えればそれは救急であり、第一線医師が救急と思えばそれは救急であると考え、全例を応需するのが救急施設の使命であると思っている。もし、受け入れ拒否をする時は「瞬時」に答えるのが最高の返事である。
(付4)MCでの一般医の困った指示:
MC体制が発足して、搬送先病院などの一般医師に指示を受けることがあるが、90歳、窒息、CPA例や外傷でのCPA例に「静脈確保」の指示が出されることがある、また救急隊員も指示に唯々諾々と従い不成功に終わり無駄に時間を浪費している。これらは救命率向上には全く無効な行為であり、知識不足ゆえの指示である。指示医の指導が必要である。
(付5)司令室からの口頭指導:
市民への口頭での有効なCPR指導は難しく、その効果には疑問があり、学会等で判りやすい指導法を模索している。
(付6)家族との連絡方法:
救急隊にとっては、迅速な患者搬送が最優先するのは理解できるが、重症患者であればあるほどその後の手術承諾などに家族との連絡が必須となる。このため、救急施設側は家族への連絡方法について救急隊から情報を得たがる。“価値観の差”のために関係に齟齬を来すことがある。
4 ERスタッフへの指示
(1)搬入される患者の病態、重症度、緊急度の提示と準備品の指示を行う。救急処置は準備が全てで、このためには事前の訓練とプロトコール作成が重要である。いつも、スタッフには、「最大限、最悪を考えて万全で過剰な準備を行い、全てが無駄になることが最良である」とか、救急処置は“ドタバタ”するものではなく、“粛々”と行うものである、と指導している。
実際に使用している準備のためのレベル分類
レベル1:
帰宅可能と予測され、特別な準備は不要
レベル2:
入院治療が必要になりそうな患者、症状に応じた準備が必要(例:薬剤過量服用患者の胃洗浄、切断指の止血器具
レベル3:
CPAや呼吸不全、心不全などの症例で心肺循環保持のため万全の準備が必要(気管挿管、呼吸器、緊急薬剤、CVセット、Aライン等)
レベル4:
レベル3に加えて、開腹止血、開胸心臓マッサージ、緊急気管切開など、重装備の準備を要するもの
(2)受診歴のあるものでは、カルテ、レントゲン、心電図など過去のデータを取り寄せる。
(3)集団急病事例になりそうなものは、スタッフや機材の招集を行う(プロトコールは事前に作成されている)。
(4)スタッフ全員が同時に情報の共有が出来るような機器(ホットラインの会議ボタンやスピーカー装置)を設置しておく、当施設では、ホットラインの会話は、2つのICU、CCU、ER、宿直室×2で同時に聴取できる。
(5)ER室ボードへの搬入予定患者の病態などを記入してスタッフ全員に情報を提示しておく。
Ⅴ 救急患者治療の参考覚え書き: 
 「急性アルコ-ル中毒」
【A 病態の把握】
(1)中毒物質と含有物:エタノ-ル( エチルアルコ-ル) は、分子量;46、分布容積:0.54±0.05L/kgで、酒類をはじめとしてさまざまな飲料の他、工業用品( 溶剤、防腐剤、塗料) 、薬効成分の吸収を促進するために、香水、整髪料、化粧水にも含まれ、また医療用としても殺菌、消毒剤に用いられる。特殊なものとして、ドリンク剤のなかにも相当量が含有(表1)されている。
(2)中毒の発生機転:大量の飲酒によるものがほとんどであるが、小児の化粧水などの誤食例もある。
(3)特殊な病態:
特殊なものとして、念頭に置かねば見逃してしまう(長期間のアルコール多飲患者が通常の酒酔い状態とは異なる意識障害を来した時に考慮する)ウエルニッケ脳症や離脱症候群がある。
(4)合併症:アルコ- ル酩酊状態のための、転倒や墜落による外傷事故、交通事故、溺水、低体温症、凍死は多い。外傷患者の14% が飲酒中であったという報告や、アルコールが原因で、ERに搬入された患者305名のうち117名(38%)が外傷を合併していた報告がある。
(5)各種アルコ-ル飲料のエタノ-ル濃度:ビ-ル:500mlでアルコール量22g、清酒:180mlで同20g、ウイスキ-/ブランデ-:60mlで同20g、ワイン:120mlで同12g程度である。
【B 体内動態】
(1)吸収と分解と酵素; 消化管から速やかに(ピーク濃度:30分〜120分)吸収され、変化を受けずに血中に出現する。腎などでも代謝されるが、90% は肝で代謝される。肝では、アルコ-ル脱水素酵素によりアセトアルデヒドに、ついでアセトアルデヒド脱水素酵素により酢酸に酸化され、最終的には水と二酸化炭素に分解され、尿と呼気に排泄される。日本人(モンゴロイド)は遺伝的に代謝能力の弱い方のアセトアルデヒド脱水素酵素を持つものが多い(45%)。アルコールの量が多すぎると上記の分解処理が追いつかず、アセトアルデヒドの毒性(血圧の上昇、低下、頭痛、動悸、吐気等とともに、細胞毒性そのものも言われている)や、アルコールそのものの作用によって、以下のような各種の臓器への障害が発生する。
(2)消失速度; 通常100〜125mg/kg/ 時間であるが、アルコールの処理を行うアセトアルデヒド脱水素酵素Ⅱ型の量は、個人差が激しいためその消失速度には大きな差がある。24時間で代謝しうる最大量は約500gである。
(3)血中濃度への関与因子; 摂取量、摂取速度、含水量、胃内容物の有無(特に脂肪分)、アルコ-ル濃度、代謝速度に影響される。
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【C 重症度:アルコ-ル濃度と酩酊度】
血中アルコ-ル濃度が350〜450mg/dl で中毒が発生し、血中濃度450 mg/dl 以上では、死亡の確率があがる。小児では25mg/dl でも中毒の危険がある。確定診断は、血中のエタノール濃度でなされる、積極的に測定し、検体を保存しておく。
(1)酩酊( 血中アルコ-ル濃度:50〜150 mg/dl );顔面紅潮、血圧上昇、陽気、多弁、抑制がとれる。ふらつく。
(2)中等度酩酊(150〜250);興奮期と言語不明瞭、運動失調、易刺激性、判断力の低下。嘔吐などの明らかな中毒症状が出現する。
(3)深酔(250〜350);意識混濁、麻痺症状、歩行失調、瞳孔散大。
(4)泥酔(350〜450);昏睡、反射消失、不整脈、心筋抑制、血圧低下、低血糖、低体温、代謝性アシドーシスが発生する、放置すると呼吸抑制により死亡する。
(5)死亡(450〜); 呼吸麻痺、心不全にて死亡する。限界は8mg/mlといわれているが、常飲者では、エタノ-ル濃度が1000-1500mg/dlであっても死亡しない報告例もあり、逆に、260mg/dlでの死亡例もあり、個人差が激しい。
■傷害罪の適応:“一気飲み”により平成3年からの15年間で10数名の大学生が死亡している。近年、させた側は加害者として傷害罪を適応、責任が追及され、500万円の損害賠償を支払った例もある。
■中毒死例の検討:東京都監察医務院における急性アルコール中毒死調査:5年間の東京都の調査で、147名の急性アルコール中毒死があった。多発年齢は、35歳〜60歳(77%)であった。病院外での死亡が、63%と多かった。季節は12月をピークとして冬期に多かった(11月〜3月:65%)。無職が45%であった。
【D 症状】
(1)中枢神経系; 中枢神経への抑制作用がある。大脳皮質の高等機能の抑制、麻痺、脳幹網様体への抑制作用が強い、大脳辺縁系への抑制は軽度である。運動失調、痙攣、反射消失、高濃度になれば、脳幹部麻痺による呼吸麻痺により死亡にいたる。
(2)循環系; 多尿、発汗亢進、末梢血管拡張により、脱水をきたし、血圧低下を来しやすい。心房細動などの不整脈の発生がある。心筋抑制もある。カテコラミンの分泌増加;により、心拍、呼吸数が増加する。
(3)腎臓系; 抗利尿ホルモンの分泌が抑制されるため利尿がある。
(4)消化器:少量では胃酸分泌促進。頻回の嘔吐による吐血(Mallory-Weiss症候群)がある。
(5)痙攣;Ca の尿中への排泄増加によるテタニ-発作がある。また、低血糖でも誘発される。
(6)低血糖; 乳酸、アミノ酸、グリセロ-ルからの糖新生が障害されるため、肝グリコーゲン貯蔵量の少ない例や小児では低血糖を起こす。極度の低血糖により脳障害を発生する場合もある。エタノ-ル濃度が低下する時期に痙攣をきたすことがある。
(7)急性高脂血症; 脂肪酸酸化の抑制、合成の亢進、カテコラミン増加による脂肪組織からの遊離脂肪酸の増加などにより発生する。
(8)低体温; 体温調節中枢の抑制、末梢血管拡張、発汗、偶発性低体温症により低体温を示す。
(9)アシド-シス:中等度の代謝性アシドーシス(乳酸アシドーシスまたはケトアシドーシス)を来すことがある。
【E 特殊な病態】
(1)ウエルニッケ脳症
【背景】ビタミンB1(チアミン)欠乏による脳症であり、ビタミンB1の欠乏のみでも発生するが、アルコール多飲患者に多く発生する。過剰なアルコール摂取は、消化管からのビタミンB1の吸収や肝臓における貯蔵を阻害するため、長期、かつ大量にアルコールを摂取すると、慢性的なビタミンB1欠乏になる。また、飢餓後の炭水化物負荷やブドウ糖の静注は、本症を発生させる可能性がある。未治療の患者では、昏迷から昏睡へ移行して死に至ることもある。
【症状】錯乱、見当識障害、傾眠、昏迷、振戦、興奮、または、活動低下、眼振、眼筋麻痺などの眼球運動の異常、瞳孔不同、対光反射緩慢、歩行失調、運動失調を示す。
【診断】症状や問診などから臨床的に行う。中毒、低血糖などの除外診断は必ず行う。
【治療】ビタミンB1値の検査結果は入手まで時間が掛かるため、ビタミンB1100mgの即時静注を行い、その後3-5日間継続する。マグネシウムはビタミンB1代謝に必要な補助因子であるため、硫酸マグネシウム(1-2g6時間毎の静注)、酸化マグネシウム800mg経口投与/日)補充する。その他、全身療法として水分補給、電解質補正も行う。予防として、栄養不良の患者にブドウ糖を投与する場合にはビタミンB1,B12,葉酸を同時に投与しておく。
【コルサコフ精神病】持続的なウエルニッケ脳症の晩期合併症であり、記憶障害(即時記憶の障害、記憶喪失)、錯乱、行動変化(無関心、無感動、多幸症)作話(記憶喪失のため無意識に説明をねつ造する)を起こす。未治療のウエルニッケ脳症の80%に発生する。
(2)飲酒中止後の症状
1)離脱症候群:飲酒中止後、12-48時間で、一連の症状が現れる。振戦、発汗、反射亢進、衰弱、消化器症状、幻覚、痙攣などが起こる。回復には1-3週間を要する。
2)振戦譫妄: 飲酒中止後、48-72時間で始まり、情動不安、錯乱、悪夢、強い抑鬱、恐怖、幻覚、振戦、運動失調、が見られる。自律神経の不安定として、発汗、頻脈、体温上昇(予後不良の徴候)、等が付随して発生する。自傷防止に努める必要がある。通常24時間以内に消退しはじめるが、致死的な場合もある。
治療は、鎮静するまで、ベンゾジアゼピン(ジアゼパム5-10mg)の1時間毎の静注、その後4―6時間毎の投与を行う。安心感を与えることは有用である、拘束は行うべきでない。
(3)断酒剤中毒(シアナマイド@、ノックビン@)
服用することによって、アセトアルデヒド脱水素酵素を阻害してアセトアルデヒドを体内に蓄積させ、悪酔いをもたらすことで断酒を促進する薬剤がある。これらを服用中に、意図的や事故としてアルコールを摂取した場合に、顔面紅潮、血圧低下、胸部圧迫感、呼吸困難、失神、頭痛、痙攣を来して搬送される患者がいる。
【F 治療(標準)】
(1)胃洗浄:飲酒後早期であれば、胃管挿入により残存アルコ-ルや食物残渣などを排除し、血中濃度の上昇や誤嚥を防止する。施行時には誤嚥に注意する、意識レベルの悪いものでは気管挿管の後に行う方が安全である。
(2)活性炭:無効である。
(3)輸液; 脱水や血管拡張による血圧低下に対しては、リンゲル液の大量投を行う。
(4)強制利尿:無効である。
(5)保温:電気毛布により保温を行う。
(6)循環管理:血圧低下があれば、カテコラミンの投与(dopamin:2〜5μg/kg/min)の持続投与を行う。効果がなければ、ノルエピネフリン:0.1μg〜/kg/min)の持続投与を行う。
(7)低血糖;50 % グルコ-ス50ml静注、もしくは高血糖の輸液を行う。
(8)高乳酸血症性アチド-シス; メイロン@により補正する。
(9)興奮状態; セルシン@10mg反復静注を行う。幻覚を伴うときはセレネ-ス@10mgを反復静注するが、呼吸抑制に注意して使用する。
(10)痙攣; ジアゼパム:5〜10mg静注を行う。場合により、フェニトイン250mg を30分かけて静注する。エタノールはフェニトインの濃度を上昇させるので注意する。基本的にアルコール耐性を持つ人は、多くの中枢神経薬に対し交差耐性を示すことが多い。
(11)低Ca血症、低K 血症、低Mg血症; カルチコ-ル@やアスパラK@ の投与を行う。
【G 治療(特殊)】
(1)気道確保、人工呼吸; 死因は呼吸麻痺であるため、必要例では早期に挿管し、人工呼吸をおこなう。また、嘔吐物による窒息の予防のためにも状態に応じて挿管による気道確保を積極的に行う。誤嚥を防止するために回復体位を取らせる。
(2)血液透析:エタノール除去には有用であり、肝臓でのエタノール代謝の3-4倍の速度で濃度を低下させるため、肝障害のある重症例では、時に必要となる。
(3)血液吸着; 無効である。
(4)ビタミンB1,B6 :補酵素として酸化を促進、果糖もエタノ- ルの分解を促進するため、ビタミンと果糖(10%フルクトース100ml)の投与を行う。しかし、フルクトースは、嘔吐、アシドーシス、浸透圧利尿を発生させうるので注意する。
【H 診療上の注意点と帰宅の判断】
意識障害患者がアルコ-ル臭を伴っていたからといって、急性アルコール中毒患者であると即断しない。同時に頭部外傷(注1)、高血圧性脳出血、偶発性低体温症などの器質的疾患を発生していることがあるので、これを見逃さないようにする。また、脱水、血圧低下を誘因として脳梗塞が続発することもある。頭蓋内出血による意識障害であれば意識状態は一時的に清明期があっても次第に悪化する、アルコール中毒患者で意識障害のある患者では、over night bed での一泊入院が最善の対応である。また、疑い例では、躊躇無く脳CT検査を施行すべきである。
※ 注1:典型的な例として、飲酒後の喧嘩により頭部打撲し、搬送された患者の硬膜外血腫を見逃し植物人間にしたと、訴訟された例がある。
表1 ドリンク剤のなかのアルコール含有量
スタッフ
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部長

千代 孝夫
(部長 兼 救命救急センター長)

副部長

辻本 登志英
(副部長 兼 集中治療部部長)

副部長

中 大輔
(副部長 兼 神経救急部部長)

副部長
浜崎 俊明
医師
久保 健児
(兼 感染症科部スタッフ)
修練医
河村 麻美子
(兼 集中治療部スタッフ)
嘱託医師
久保 真佑
(兼 集中治療部スタッフ)

研修医

5名

兼務医

5名

11.12.28
糖尿病・内分泌内科部
外科部
乳腺外科部
小児外科部
眼科部
耳鼻咽喉科部
第二泌尿器科部
リウマチ科部
感染症科部
漢方科部
第一救急科部
集中治療部(第二救急科部)
神経救急部(第三救急科部)
健診部(健康管理センター)
病理診断科部
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